「グリセリンフリー」について ~シロクロなりの考え方 その1~

グリセリンフリーコンセプトの悩ましさ

前回は、「〇〇フリー」というコンセプトについて、私なりの考えや想いを書きました。
今回は具体例として、「グリセリンフリー」について考えてみたいと思います。

先にシロクロとしての結論をお伝えすると、グリセリンに着目してアイテム選びをすること自体はよいと思います。

ただ、微量でも含まれるものを避け、「全く含まない」というフリー表示にこだわるのは、やや行き過ぎではないでしょうか。
また、その選び方が、かえって自分に合う化粧品を見つける可能性を狭めてしまうのではないか、というのが私の考えです。

もちろん、前回話したように「フリーの製品を使ってみたら調子がよかった」という経験や、
そうした製品を選びたいという気持ちを否定するものではありません。
ただ、グリセリンが入っているという理由だけで、初めから選択肢から外してしまうことや
グリセリンフリーという言葉がコンセプトとして使用されることについては
少し疑問を感じています。

以下、そう考える理由について、私なりの見解を述べていきます。

グリセリンがアクネ菌を増やすという捉え方について

グリセリンフリーの話で、よく引用されるのが「グリセリンはアクネ菌のエサになる」という情報です。

例えば、サティス製薬が2009年に公開した研究紹介では、各種保湿剤のアクネ菌に対する資化性、つまり栄養源として利用される性質を比較しています。その試験では、グリセリンで無添加に比べて約4倍の増殖が報告されています。〔1〕

この報告自体を否定するものではなく、ひとつの「結果」「エビデンス」として受け止めるべきでしょう。

ただ、この結果から、
「グリセリンはアクネ菌を増やす」、さらには「グリセリン入りの化粧品はニキビができやすい」
と結論づけてしまうことについては、ちょっと飛躍しすぎと言いたいところです。

私がそう考える理由は、大きく以下の2つです。

理由①:アクネ菌だけで行った試験であり、ほかの菌や菌叢全体を見ていない

皮膚にはさまざまな菌が存在することは、皆さんもご存じでしょう。
その意味で、アクネ菌だけの試験から、実際の皮膚で起きることまで結論づけるのは十分ではありません。

ほかの菌、例えば「美肌菌」とも呼ばれる表皮ブドウ球菌でも、同様の試験を行っておきたいところです。
実際、グリセリンを利用するのはアクネ菌だけではなく、表皮ブドウ球菌も、グリセリンを栄養源として利用することが報告されています。〔2〕

今まで多くのデータを見てきた経験から、私は表皮ブドウ球菌でも、条件によっては同じように増殖を支える結果になるのではないかと考えています。
つまり、「グリセリンはアクネ菌も増やすけど、美肌菌も増やす」という可能性が高いのではないかと。

皮膚常在菌についての研究は、分析技術の進歩によって大きく進んでいます。
それに伴って、単一の菌種だけを見て肌への影響を判断することの悩ましさも、より明確になったと言えます。

ニキビとアクネ菌の関係も、「アクネ菌が多いからニキビができる」というほど単純なものではありません。
アクネ菌といってもさまざまなタイプがあり、どのようなタイプが存在するかも関係することが報告されています。〔3〕

皮膚常在菌については、別の機会に詳しくお話ししようと思いますが、
こうしたことからも、「ひとつの菌が増えた、減った」という結果だけで、成分の良し悪しまで判断するのは難しいと捉えています。

理由②:比較しているBGやDPGなどには、ある程度の防腐効果がある

この報告では保湿剤同士で比較していますが、別の視点として、成分が持つ「防腐」効果にも注目すべきと考えています。

例えば、谷口らの報告では、BG・DPGのMICは以下のようになっています。〔4〕

MICは「最小発育阻止濃度」のことで、決められた試験条件と培養時間の中で、菌の増殖が認められなくなる最も低い濃度で、化粧品におけるい防腐設計のヒントとなる指標です。

試験菌BGのMICDPGのMIC
黄色ブドウ球菌16%22.5%
緑膿菌8%8%
大腸菌10%12%

出典:谷口康将・野村重雄「最小発育阻止濃度(MIC)を基準とした予測式からの化粧品の保存効力の予測」(2012)、Table 2より抜粋。

菌種や試験条件によって異なりますが、BGなどの2価アルコール(ジオールともいいます)には、
一定の濃度で細菌の発育を抑える作用があるわけです。

もちろん、これはアクネ菌や表皮ブドウ球菌を直接調べた数値ではありません。
ただ、両者とも黄色ブドウ球菌と同じグラム陽性菌に分類されます。

同じ分類だから同じ濃度で抑えられる、ということではありませんが、こうした共通点や私自身の開発経験からすると、比較した保湿剤の発育阻止作用が結果に影響している可能性もあります。その意味では、ある程度想定どおりの結果だと受け止めています。

さらに言えば、そもそもこのような試験で菌が増殖することと、実際に製品を肌に使って特定の菌が増えるのか?さらにそれがニキビの成因となるのかについては同じではありません。

この報告から「グリセリンフリーじゃないとニキビができる」と結論づけたり、ニキビができる理由としたりするのは、やはり妥当ではないでしょう。

肌にも存在するグリセリン

グリセリンは、肌にも存在する「天然の保湿剤」です。

肌に存在することが、直ちに安全性の高さを示すわけではありません。それでも、本当にグリセリン自体が肌に合わない原因物質だとすれば、化粧品をつけるまでもなく、そのリスクを常にはらむことになるのではないか、という疑問があります。

もちろん、肌にもともと存在するときと、化粧品として塗布するときでは条件が異なりますが、こうした皮膚生理との関わりも含め、私はグリセリンを、化粧品成分として安全性が高い部類だと捉えています。

皮膚に含まれるグリセリンについては、いくつかの報告や推測があります。

例えば、『美肌科学の最前線』(シーエムシー出版)では、顔表面のグリセリン量を0.7µg/cm²、皮脂膜の厚さを0.5µmとすると、およそ1.4%のグリセリン溶液で皮膚表面が覆われていることになる、と説明されています。〔5〕

これは、肌表面の濃度を直接測定した値ではなく、報告された量と仮定した膜の厚さから換算したものです。

また、少し古い文献ですが、ニキビ患者の皮膚表面にあるグリセリンを調べた研究もあります。

この研究では、未治療のニキビ患者で、皮脂の分解から理論上予想される量よりも実際のグリセリン量が少なく、治療を受けた患者や対照群では、理論上の量に近かったという結果が示されています。著者らは、アクネ菌がグリセリンを利用している可能性を示唆しています。〔6〕

これをどう捉えるかは難しいところですが、少なくとも「ニキビ肌ではグリセリンが多い」という説明にはつながらないように思います。

まさかこのグリセリンにまで「フリー」というコンセプトが生まれるとは、少し前まで夢にも思わなかった、というのが私の本音です。

なぜ「グリセリンが肌に合わない」と感じるのか

一方で、実際に「グリセリンが合わない」と感じる人がいることも、無視できませんし、ご自身がそう感じることを否定するつもりもありません。

ただ、「なぜそう感じるのか?」「そこに何かほかの要因が隠れていないのか?」を考えることが、サイエンスに基づく情報発信を謳っている人間の重要な役割だと思っています。

以下、私なりにその可能性を考えてみました。

可能性1:接触皮膚炎

接触皮膚炎には、大きく分けて、アレルギー反応によって起こるものと、アレルギーを伴わず、成分などの刺激によって起こるものがあります。この2つは分けて考える必要があります。〔7〕

まず、アレルギー性接触皮膚炎の観点から、保湿剤について見てみます。参考として、SSCI-Netの報告にある、2016〜2021年度に原因成分が確定した集計などを整理すると、以下のようになります。〔8〕

SSCI-Netの報告にみる、主な保湿成分の原因確定報告数とパッチテスト条件

保湿成分Table 5:原因確定報告数(2016〜2021年度)Table 7:貼付試料濃度Table 7:溶媒Table 7:パッチテスト項目としての継続推奨
BG(ブチレングリコール)53件10%水○
DPG(ジプロピレングリコール)15件10%水○
ペンチレングリコール3件記載なし記載なし当該表に掲載なし
PG(プロピレングリコール)3件10〜30%水○
グリセリン当該集計に掲載なし100%―○の記載なし

出典:杉山真理子・松永佳世子「香粧品による皮膚障害の最小化を目指すSSCI-Netの取り組み」(2024)、Table 5・Table 7より整理。

(注)Table 5の件数は、原因確定成分の製品種類別件数の合計で、陽性率・発症率ではありません。Table 7は別研究の貼付条件を示し、「継続推奨」の○は、検査対象患者で陽性率が1%以上となり、パッチテスト項目として継続使用が推奨されたことを意味します。一般使用者の発症率や、化粧品への配合推奨を示すものではありません。「掲載なし」や○がないことは、症例やリスクがないことを意味しません。水は原表の「aq」、100%・溶媒「―」は希釈せずに用いる条件です。

私の印象では、BGもグリセリンも、化粧品で広く使われている代表的な保湿成分です。

グリセリンに着目すると、それだけ汎用されているにもかかわらず、この集計では原因成分として挙がっていません。一方、BGやDPGは原因確定成分として挙げられています。この違いは、ひとつの重要なポイントです。

もちろん、この結果から「BGが危険、グリセリンは安心」といった極論を言うつもりは全くなく、どちらも、ほとんどの場合は問題なく使用できる優れた保湿剤であることに変わりはありません。

そのうえで、少なくともアレルギー性接触皮膚炎という観点では、グリセリンよりBGの方がリスクが高いのかもしれない、というのが私の見方です。

さらに踏み込んで言うと、グリセリンをいたずらに避けてBGを代用成分として多用することが、結果的に肌に合わない人を増やすことにつながらないか、心配なんです。
あくまで個人的な見解ですが...

一方、刺激性接触皮膚炎については、成分の濃度、接触する時間や頻度、処方全体、使うときの肌の状態なども含めて考える必要があります。

そのため、アレルギーの報告状況だけで、刺激性の皮膚炎についてまで同じように判断することはできません。

刺激性接触皮膚炎では、適用する濃度が重要な要素になりますので、なおさら「入っているか、いないか」だけで判断するのは違うのではないでしょうか。成分が「フリー」である必要性に、そのままつながる話ではないはずです。

可能性2:感覚刺激(スティンギング)によるもの

次に、ヒリつきやピリピリ感、灼熱感などの感覚刺激についてです。こうした感覚は、目に見える赤みや湿疹を伴わずに起こることもあります。

化粧品に使われる成分でも、感覚刺激を評価した研究があります。例えば乳酸は、感覚刺激への反応を調べる試験に使われています。〔9〕

また、フェノキシエタノールでは、1%配合処方による灼熱感やかゆみなどが報告され、感覚に関わるTRPV1というセンサーの関与も検討されています。〔10〕

一方、グリセリンについては、アトピー性皮膚炎患者を対象に、20%配合クリームと、グリセリンを水に置き換えた基剤を比較した研究があります。この試験では、スティンギングの程度に有意差は認められていません。〔11〕

これは、グリセリンでは感覚刺激が起こらないと断定するものではありません。ただ、今回確認した文献の範囲では、皮膚への塗布でグリセリン自体をスティンギングの原因と特定した報告は見当たりませんでした。

また、私の開発経験では、シートマスクのような被覆性の高い製品で、一部の防腐効果を持つ成分やBGなどを高配合した際に、刺激が課題になったことがあります。一方で、グリセリンが原因物質であったという経験はありません。

これらに加え、先ほど話したように肌にもともと存在する成分であることも、私の判断の背景にあります。

こうした情報や経験を合わせると、グリセリンによるスティンギングが「肌に合わない」と感じる主な理由になっている可能性は、低いのではないかと考えています。

可能性3:使用感による違和感

肌に合わない理由として、その可能性が大きいと思うのが、使用したときに感じる違和感です。

グリセリンが多い処方では、べたつきや、特有のギシッとした止まり感が気になることがあります。
その不快感が、「肌に合わない」という評価につながる場合もあるのではないでしょうか。

これは「気のせい」という話ではありません。むしろ、十分に起こりうることだと捉えています。

皮膚は単なる外から守るバリアの役割をもつ臓器ではなく、神経や免疫などが関与する「感じる臓器」でもあります。こうした相互作用を捉える考え方として、NICS(Neuro-Immuno-Cutaneous System:神経・免疫・皮膚系)という概念があります。〔12〕

また、皮膚と脳、心理的ストレスとの関係についても研究されています。〔13〕

私自身は、肌で感じた不快感が脳に伝わり、そこから肌へ負の要素としてフィードバックされることも、十分にあり得ると捉えています。このあたりは、別の機会に詳しくお話しするつもりです。

ちなみに、「肌に合わないものをつけている」と思いながら使うことも、肌と脳にとってネガティブに働く可能性は十分にあるでしょう。

スキンケアで感じる違和感は、成分の良し悪しだけでなく、使用感や感覚的な要素、事前に認識している情報も含めた反応として重要視すべきではないかと思うのです。

開発者としての想い

ここからは、処方をつくる側の想い、本音です。

私がグリセリンを評価しているのは、優秀な保湿性能に加え、使用実績や原料コストを含めたバランスのよさ。ほかの成分に置き換えるだけでは、同じようなモノにはなりません。

だからこそ、使わない理由が明確でないまま外してしまうのは、非常にもったいない。

そのもったいなさについては、次回お話しします。
(グリセリンの働きは、とても奥が深いのでお楽しみに!)

かなり長くなったので、今回はここまで。

次回は、グリセリンがもつポテンシャルと、化粧品を選ぶときにグリセリンのどこに着目すべきなのか、
その結論について詳しくお話ししたいと思います。

引用文献・参考情報

〔1〕株式会社サティス製薬.「【研究調査】化粧品でアクネ菌が増える? ~保湿剤編~」.2009年5月19日.

〔2〕Salgaonkar N, et al. Glycerol fermentation by skin bacteria generates lactic acid and upregulates the expression levels of genes associated with the skin barrier function. Experimental Dermatology. 2022;31(9):1364–1372. DOI: 10.1111/exd.14604.

〔3〕Fitz-Gibbon S, et al. Propionibacterium acnes strain populations in the human skin microbiome associated with acne. Journal of Investigative Dermatology. 2013;133(9):2152–2160. DOI: 10.1038/jid.2013.21.

〔4〕谷口康将,野村重雄.最小発育阻止濃度(MIC)を基準とした予測式からの化粧品の保存効力の予測.日本化粧品技術者会誌.2012;46(4):295–300.DOI: 10.5107/sccj.46.295.

〔5〕前田憲寿.第1章 美肌サイエンスの研究開発.前田憲寿監修『美肌科学の最前線』.シーエムシー出版,2014,p.5.

〔6〕Rebillo T, Hawk JL. Skin surface glycerol levels in acne vulgaris. Journal of Investigative Dermatology. 1978;70(6):352–354. DOI: 10.1111/1523-1747.ep12543549.

〔7〕日本皮膚科学会.「かぶれ(接触皮膚炎)」皮膚科Q&A.

〔8〕杉山真理子,松永佳世子.香粧品による皮膚障害の最小化を目指すSSCI-Netの取り組み.日本香粧品学会誌.2024;48(2):103–113.DOI: 10.11469/koshohin.48.103.

〔9〕Nisbet SJ. Skin acceptability of a cosmetic moisturizer formulation in female subjects with sensitive skin. Clinical, Cosmetic and Investigational Dermatology. 2018;11:213–217. DOI: 10.2147/CCID.S157297.

〔10〕Li DG, et al. Inhibition of TRPV1 prevented skin irritancy induced by phenoxyethanol. A preliminary in vitro and in vivo study. International Journal of Cosmetic Science. 2017;39(1):11–16. DOI: 10.1111/ics.12340.

〔11〕Lodén M, et al. A double-blind study comparing the effect of glycerin and urea on dry, eczematous skin in atopic patients. Acta Dermato-Venereologica. 2002;82(1):45–47. DOI: 10.1080/000155502753600885.

〔12〕Misery L. Neuro-immuno-cutaneous system (NICS). Pathologie Biologie. 1996;44(10):867–874.

〔13〕Arck PC, et al. Neuroimmunology of stress: skin takes center stage. Journal of Investigative Dermatology. 2006;126(8):1697–1704. DOI: 10.1038/sj.jid.5700104.