「〇〇フリー」を選ぶ前に知ってほしいこと|処方開発者の視点から

思った以上に多い?「〇〇フリー」で商品を選ぶ人

化粧品を選ぶとき、「〇〇が入っていないものを探す」という方は多いようです。
Xの投稿を見ても、この考え方で商品の取捨選択をする人が、思った以上に多いと感じています。

グリセリンフリー、酸化亜鉛フリー、サルフェートフリー……。
気になる成分があれば、それを含まないものを選ぶ。確かに、わかりやすい選び方です。

ただ、処方を設計してきた立場からすると、「その成分が入っているか否か」という情報だけで、製品を判断してしまってよいのだろうか、と感じることがあります。

今回から数回に分けて、この「〇〇フリー」について考えてみたいと思います。
第1回目は、個々の成分の話に入る前に、私がこのテーマで伝えたいことから。

シロクロの大前提~合わなかったという経験は大事~

まず、大前提。私は「〇〇フリー」という考え方そのものを否定したいわけではありません。

ある化粧品を使って肌が荒れた。特定の成分が入ったものを使うと、どうも調子がよくない。
そんな経験があれば、避けたくなるのは自然なことだと思います。

私も、食事で似たような経験があるんですよね。過去に食後に体調を崩したことが2回あり、共通していたのが「牛タン」でした。
検査をしていないので、本当に牛タンが原因だったのかはわからないのですが、
「また起きたらどうしよう」と思うので、今も避け続けています。
(特に1回目より2回目がひどかったので、次は…と思うと)

ただ、自分が避けることで済むなら、そう思う自分が避ければいいのであって、
自分が体験者だからといって、他の人に「牛タンはリスクあり」と伝えるつもりはありません。
広く当てはまることでもないだろうし、何より、

原因だという確証も、ロジックもないので。

化粧品における「〇〇フリー」についても、同じように考えています。

肌に合わなかった経験があれば、もう一度試すのが怖くなるのはとてもよくわかります。
「一般論として、それが原因ではないんじゃない?」と言われても、試す気持ちになれるとは限りません。
一度肌状態が悪くなると、通常の状態に戻るまで、時間がかかってしまうことも多いですし。

だからこそ、

肌に合わなかった経験のある方に、合わないと思う成分が入ったものを無理に使ってほしいとは思っていません。

一方で、「自分には合わないかもしれないから避ける」ということと、
「この成分は避けたほうがいい」と他の人にも伝えることは、
少し分けて考えるべきなのでは?と思います。

自分の経験を伝えることは大切で、同じような経験をした人にとっては有用な情報になることもあります。
ただ、他人に伝える際には、
その経験からどこまで言えるのか、
他の人にも当てはまるのか、
については、もう少し慎重になるべきだと思うのです。

特に私のように長く化粧品開発に携わる人間、サイエンスを武器にする人間は、
情報を伝えることについて、より慎重になるべきなんじゃないかなと思うわけです。

増え続ける成分情報と「〇〇フリー」

化粧品の全成分表示によって、製品中に何が配合されているのかを確認できるようになり、
商品を選ぶうえで役立つ情報の1つであることは事実です。

一方で、成分名が並んでいても、それだけで製品を理解するのは難しいものです。

  • どのくらい配合されているのか。
  • どんな成分と組み合わせているのか。
  • その原料に、どのような処理が施されているのか。
  • どのように作られているのか。

そうしたことまでは、成分名の一覧から十分に読み取れません。

逆に成分に関する情報が増えたことで、かえって「賢く」選ぶのが難しくなった面もあるのではないか。
私はそう感じています。

2019年に発刊した『美肌成分事典』の「はじめに」で、私はこう書きました。

化粧品にすべての成分を表示することになって以降、情報伝達手段の変化も相まって、情報「量」ばかり増え、
「質」が落ち、逆に化粧品選びがより難しくなってしまったのではないかなと感じています。

この状況が、悪化の一途を辿っているのでは?とさえ感じることがあります。

確かに「この成分を避ければよい」という基準はシンプルです。
私自身も、以前はそのわかりやすさに惹かれたことがありました。

25年以上前、ボディソープの処方開発をしていたときに、
今でいう「サルフェートフリー」の製品案を社内で提案したことがあります。

当時はまだ全成分表示制度ではなく、
「台所洗浄剤と同じ成分を使っていない」と説明すれば伝わるのでは?と考えていました。
様々な理由で企画段階で不採用となりましたが、
今振り返ると、採用されなくてよかったとつくづく思います。

当時の自分も、「わかりやすく、刺さりやすいコンセプトで」と真剣に考えていたのですが、
処方中の特定の成分のあるなしで商品全体をよく見せようと思っていただけで、
そこには「サイエンス」に基づくロジックは皆無だったなと。

今思うとなんて安直な…と反省しきりです。
いくら若いからといって、そんな単純なことではないのはわかっていたはずなのに。

成分を組み合わせる処方設計と「〇〇フリー」

処方開発では、一つの成分を入れるか、入れないかだけを考えているわけではありません。

保湿には役立っても、量が多くなると使用感の調整が必要になる。
キーとなる有用な成分を安定に配合するために、最適な組み合わせを検討する。
そんなふうに、様々な要素のバランスを取りながら、求められる条件を満たすように設計しています。

時には大きな壁にぶつかることもありますが、そこが処方を考える面白さでもあります。
商品一つ一つは、処方設計者が込めた魂の賜物でもあるのです。

だから、設計の意図や、その成分のデメリットをどう解決するかといった工夫に触れず、
成分名だけで「〇〇が入っているからよくない」と商品全体を判断されると、本当に悲しくなります。

処方設計者に限らず、その商品の開発、発売に携わってきた人にとって、
製品はいわば「我が子」。
その「我が子」に、いわれのない「レッテル」を貼られているようなものなんです。

一方で、SNSを中心とした情報に対して、個々のメーカーの反論手段は限られています。
そうした事情も、特定の成分に対するネガティブな情報が発信され続ける背景にあるのでは、と感じています。

ということで、改めてこの場で文字数を気にせず、
「〇〇フリー」でよく話題になる成分にフォーカスをあて、
シロクロなりの考えを展開していこうと考えています。

「〇〇フリー」で見落としてしまうこと

もう一つ気になるのは、特定の成分を避けることに集中すると、
それ以外の条件を見落としてしまう可能性です。

製品が合わなかったとき、その成分以外にも、
別の配合成分や、使う量、使い方など、考えられることがあります。

「〇〇が入っていたから」と原因を決めてしまうと、
本当に自分に合わなかったものや条件が、わからないままになるかもしれません。

また、「〇〇フリー」という表示が広がることで、
その成分自体が悪いものだという印象につながり、
避ける必要のない人まで選択肢を狭めてしまうことも気になります。

もちろん、根拠があり、商品選びの助けになるフリー表示もあると思っています。
大切なのは、何を避けるのかだけでなく、
なぜ避けるのか、それが自分の肌にあてはまるのか、など
客観的に考えてみるということです。

自分の肌で感じたことを大切にしながら、
成分の有無だけでは見えないことにも、少し目を向けてみる。

ここでの私の話が、そのための材料になればと思います。

次回は具体的な「〇〇フリー」で話題になる成分について、
Xでバラバラと発信した情報をベースに、深掘りしていこうと思います。